書評:ニッポンには対話がない

ずばり、この本にこそ価値観がぶつかる『対話』はなかった。でもヨーロッパの価値観を知ることができ、私の中の価値観とは『対話』できた。


ニッポンには対話がない—学びとコミュニケーションの再生
北川 達夫 平田 オリザ
三省堂
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共通性の上に成り立つ個性

教育で型を教えるべきという筆者たちの主張をまとめると、

日本の『個性教育』では、自由勝手にやらせていれば個性が伸びると捉えられている。しかし、他人との共通性をもたなければその豊かな個性を認識してもらうことはできない。したがって、教育ではまず『型』を身につけるべき。まずは、スタンダードを知り、それの置き換えを行うことで自分の意見が言えるようになる。

平田:(授業の中に)与えられた方に違和感を持って、自分の表現の方に変えていくという作業を入れておく。

確かに、表現の型・思考の型を身につけずに自由にやっても確実な力をつけることにつながりませんね。学校の教育だけでなく、仕事面でもしっかりと基礎のフレームワークを学んだ後は伸びが違います。

これ、すなわち『守破離』につながりますね。(守破離とは最初は基本を忠実に守り、次にそれを応用、最後は型から離れるという世阿弥の教えのことです*1。)

価値観をぶつけてこそ対話

と二人とも述べているが、今後の生き方というこの本のメインテーマについて、

著者\パラダイム
北川 シンパシー*2 エンパシー*3
平田 協調性*4 社交性*5

と、二人とも同じことを言葉を変えて述べている。そればかりか、ほぼ全編にわたって同調しあっているだけである。これじゃあ、この本にも対話はないと言わざるを得ない。ほんとうに価値観をぶつけ合いながら納得いく結論を導く『対話』がなされてほしかった。
「いや、違いますよ。」「いやいやそれも違いますよ。」・・・、こればっかりの本ならもちろん嫌ですが、最終的に結論づけていく過程が記されている良い本はないのかなぁ。

ヨーロッパの価値観

ヨーロッパでは・・・、と話されているがきっと主にフィンランドの価値観を話しているのだと思われる。その中で、私は以下の2点が目新しかった。

  • 謝ること、許すことは、義務ではなくチャンスである。
  • 価値観の押しつけには敏感に反応してはね返すべし。パーンと冷静かつ論理的に、なおかつ、いやみったらしく。

チャンス』、『いやみったらしく』、どちらも考えたことはなかった。この価値観に触れられただけでこの本を読んだ意義があった。

マインドマップも書いてみました。

*1:ちなみに、風姿花伝には、「守破離」はなく「序破急」と記されています。また、他の原典説もあるようです。

*2:感情移入。その人の気持ちに同調する。

*3:自己移入。その人の立場になって考える

*4:価値観を一つにする

*5:異なる価値観のまま、どうにかする